ユリカモメは他のカモメと同じく東京では冬鳥なので、10月くらいから姿を見せてくれることが多い。見てのとおり愛らしい顔立ちなのだが、実は結構気性が荒く他の水鳥を駆逐している姿もよく見かける。
湊橋水管橋の縄張り争い
下の動画に映っているアーチ橋は日本橋川にかかる湊橋水管橋(人は通れない)。通行可能な湊橋に隣接している水道橋で、アーチの上が水鳥たちにとって人気のスポットになっている。
暖かい間はハトやウミネコ、たまにアオサギなんかも利用しているが、本格的に寒くなってユリカモメの数が増えてくると、この場所はユリカモメたちに占拠されてしまうことが多いようだ。
都鳥としてのユリカモメ(伊勢物語)
ユリカモメの別名は「みやこどり」という。正式名称がミヤコドリである別の鳥(チドリの仲間)もいるのでややこしいが、どうしてユリカモメがみやこどりなのかというと、どうやら平安時代に書かれた伊勢物語に由来するらしい。
伊勢物語は「昔、男ありけり」という、いちおう架空の男性の旅日記ということになっているのだが、その男が作中で読む和歌というのが、百人一首にもいる在原業平の歌そのものなので、ほとんど伏せている意味がない。
そんな業平は実は稀代のプレイボーイ(死語か?)だったようで、派手に遊び過ぎて京の都にいづらくなり、はるばる東国の武蔵の国までやってきたという記述がある(第9段)。当時はまだ江戸の町は無かったので、いわゆる都落ちということだったのだろう。
武蔵の国から隣の下総の国に行こうとするが、間に「すみだがわ」という川があって、渡し船に乗ることになった。船に乗ってみると『シギくらいの大きさで、くちばしと脚が赤い白い鳥が水の上に遊びつつ魚を食べている』のが見えた。
船頭に「なんていう鳥なのか」を聞くと、「みやこどり」だと言う。
「何?みやこどり?そういえば都に置いて来た彼女は今ごろどうしているだろう・・」と思って読んだ句が有名な
名にし負わば いざ言問わん みやこどり わが思ふ人はありやなしやと
(みやこの鳥という名前なんだったら答えてくれよ、俺の彼女は今ごろ都でどうしているだろうか)
・・という和歌だ。くちばしと脚が赤い、白い鳥なんてユリカモメ以外にはまずいないから「ユリカモメ=みやこどり」になったのだと想像している。
この句、そして業平のエピソードが元になって、いまでも墨田区には言問橋とか業平橋とか業平小学校というものがあったりする。
東京都の鳥はユリカモメ
寒いときにしか姿を見せない渡り鳥をわざわざ東京都の鳥に指定しなくてもいいような気もするが、何しろ別名がみやこどりなので、まさに東京の鳥にするのにふさわしいということになったのだろうか?(実際の経緯は知りません)
だとすると正式名称のミヤコドリのほうがちょっと可哀想な気もするが、とにかくユリカモメが公式に東京都の鳥になったことを受けてか、お台場には(電車の)ユリカモメが走っている。
あと、東京消防庁が誇る大型消防艇の名前が「みやこどり」だ。これはユリカモメ由来なのか本当のミヤコドリ由来なのかは謎。
ちなみに、湊橋水管橋の場所はこのあたり